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コミュニケーション・バイブル

山本周嗣

2012.06.06

好きになってもらう

どうしたらコミュニケーションが上手くなれるか。これは単純で、「自分のことを好きになってもらえばいい」。好きになると興味が出てくる、そうすると仲良くなる、そこからコミュニケーションが円滑になっていく。コミュニケーションとは何かというと、仲良くなること。自分のことを好きになってもらう、それってすごく重要。
では、どうしたら自分のことを好きになってもらえるかと言うと、色々なケースが考えられるが、まず、「結果を出す」こと。そして同時に、それにも関わらず、「いい人である」こと。

コミュニケーションが上手な人は、「人の立場になる」とか「聞き上手である」とか「ユーモアがある」とよく言われる。けれど、「待てよ、待てよ」と、自分が魅力的に思う人を、例えばこの人とこの人とこの人はどうか、と考えた時に、小さい分野でも大きい分野でもすごいニッチなところでも、皆必ず、結果やそれ相応のものを持っている。こんなことを言うと冷たい人間に思われるかも知れないけれど、結果を出すということは、コミュニケーションにおいてとても大事なこと。
結果とは、売れる本を書いたとか、または、目に見えるかたちではなくても、なぜか色々な人から好かれる、でもいい。会社の中でいつも面白いアイディアを言うとか、一緒のチームで何かをする時に、必ずその期待を超えてくるとか、掃除がうまい、でもいい。どんな小さなカテゴリーでも、自分が関わる社会やコミュニティにおいて、結果を出すような、自分の強みが一個あればいい。強みを持つと、相手からの尊敬や憧れが生まれ、そして自分に対する自信も出てきてコニュニケーションがよりしやすくなる。

そして、もうひとつ大事なのが、結果があるにも関わらず人間的に魅力があること。
人間には、そんなに悪い人はいない。「みんないい人ばっかりですもん、僕の周り」。ただ、それでみんなコミュニケーションが上手いかと言うと、そうではない。単に、いい人であるだけ。やはり、いい人で、しかも結果も伴っている人は、コミュニケーションが上手い。
つまり、結果を出していて、それで人間として誠実さや優しさがあり、腰が低いのであれば相手が好きになってくれる。そうするとコミュニケーションしやすくなる。自分としても自信が出てくる。そしてその場の空気をハンドルできるようになり、どんどんコミュニケーションが上手になる。

結果を出しているだけでも、ただ単にいい人であるだけでも、コミュニケーションは上手くならない。その両方が備わっていること。程度の差こそあれ、皆その両方を叶える可能性は持っていると思う。自分はまだそこに到達していないので「ちょっとずつちょっとずつ、小さいところから結果を出していって、相手に好きになってもらおうと思うんです」。

居心地がいい

家族や友人との近しい関係のコミュニケーションでは、結果がなくてもいい。居心地が良ければいい。これも大きな意味では好きになってもらうということ。居心地が良いというのは、持って生まれた雰囲気もあるし、話しやすかったり、褒め上手だったり、物知りだったり、色々な要素が考えられるけれど、要は、「相手をあったかく包む」ということ。結果がまだない自分が、人並みに人と関係を持って来られたのは、これがあったからだと思う。

そう考えたら「お母さん」というカテゴリーは、何よりコミュニケーション能力が高いのかも知れない。まず、お弁当作りや、掃除や洗濯などの家事や育児で、結果を出し続けている。しかもその原動力は「愛」。それは何よりも強い。だからみんな自分のお母さんのことが好き。好かれているお母さんは自分の子どもに対してはコミュニケーションに長けていると言える。それでお母さんには何でも言えたりする。

不思議さ

コミュニケーションにおいては、もうひとつ、言葉で言い表せないものがある。それは「不思議さ」。特にこれは恋愛で強く働くのかも知れないけれど、「不思議なところがある」、「掴みどころがない」、ということが、相手の「知りたい」という好奇心を揺さぶる。では、不思議さをどうやって出すかというと、これは結果を出すことよりも難しくて、方法はまだない。結果はがんばればなんとか出るけれど、不思議さは学習できるかどうか分からない。

経験して失敗して身を持って分かること

まさか自分が出版社を作るとは思っていなかった。以前は、証券会社で株の売り買いをしていた。それもすごく楽しかったけれど、今は、形になるものを作って、少しでも社会を良く、人の人生をポジティブに作用させることができたら、素晴らしいと思っている。作家さんが安心して本を任せられるような信頼のおける社名にしようと、1000個以上の案の中から「文響社」に決めた。できれば出版業界という変化の生まれにくいところに、新しい風を吹き込みたい。同じ思いの同士が集まるところには、コミュニケーションの枠を超えた、すごいエネルギーが生まれる。今はその状況の中にいて、すごく楽しい。
モノでもサービスでも、これは面白い、と思うことについてはなんでそうなのか考えたいし、学びたいと思っている。『ウケる技術』(新潮文庫、2003年)も友人(水野敬也氏、小林昌平氏)二人の面白さに何か法則はないのだろうか、という考えから生まれた。むしろ素人視点であるからこそできる、面白い、面白くない、の判断で、プロデューサーとしての手腕を発揮する。

株の投資でも、本を書くことにしても、失敗して、(「失敗する前に分かればいいんですけど」、)経験して初めて、これは自分に向いている、向いていない、というのが本当に身をもって分かる。例えば、本を書きたい、絵本ならできるのではないかという考えがある。実は、絵本は絵本で難しい。ハードルが低そうに見えて実は高い。でもできるかも知れないという期待があるならば、作品を応募してみるといい。10回くらい出すと分かる。何かの分野で自分の可能性に期待があるのであれば、挑戦して、皆様の評価を得るのは、非常に重要だと思う。「好き」と「得意」が重なるところに、自分の強みとして突きぬけられる可能性がある。

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女性に対してはなぜか奥手になってしまう。「なので、次は共学に行きたいと思っています」。ラブレターのやり取りや、放課後の呼び出しを、5回くらいやって失敗して、それでやっと自分に問題があるってことが分かると思う、と明るく笑う顔は本気とも取れる。失敗することになんら躊躇はない。
ブレインストーミングのような取材を終えてみて思った、やっぱり山本さんはコミュニケーションが上手だ。なぜなら、その場にいた誰もが山本さんを好きになっていたから。たぶん。

取材・写真 篠田英美

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